医療提供体制と患者さんのニーズのミスマッチを解決するために、アクセスが良い「駅ナカ」に夜9時まで診療するクリニックを開設
医師を志したきっかけを教えてください。
子どもの頃から生き物が好きだったのと、実家の農家には家畜がいて獣医がたまに来ていたので、獣医に興味を持っていました。新潟県の過疎地域の村の出身で、周囲には大学に進学して専門職に就いている方が少なく、自分の進むべき道がなかなか想像できずにいたんです。そんな中、10年ほど年上の従姉が医学部に入学したこともあり、医師になるという道もあるんだなぁと、それからは医学部を目指して勉強するようになりました。
開業までの経緯を教えてください。
医学部を卒業すると大学病院の医局に入るのが一般的ですが、私は医学部で勉強している間も、これを診ていきたいと思えるものが見いだせず、何科の医師になるのか決めることができなかったんです。それで卒業後は、自分に合った診療科を見つけたいと、内科系のローテーション研修がある虎の門病院で研修することにしました。
その研修期間に、今もご指導いただいている上 昌広(かみまさひろ)先生に出会ったことがきっかけで、血液科の診療に興味を持つようになりました。当時、上先生が手がけていたのは、赤ちゃんとお母さんを結ぶ「へその緒」から採取した血液を使って、白血病など血液のがんを治療する「臍帯血移植」です。この臍帯血移植は非常に先進的で、やりがいもあり、その後は血液科を専門にして白血病をはじめとする造血器悪性腫瘍の臨床や研究に研鑽を積んできました。
しかし、よくよく考えてみると、急性白血病を発症する患者さんは年間10万人に1人、さらに、その中でも臍帯血移植が必要になる患者さんは10人に1人、つまり年間100万人に1人程度です。一方で、世の中には他にも、さまざまな病に苦しむ患者さんが何千倍、何万倍といます。もっと広く世のために貢献していきたいという思いが、次第に強くなっていきました。
2005年からは東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム部門(現在は、特定非営利法人医療ガバナンス研究所)に客員研究員として所属して、医療と社会の間に生じるさまざまな問題をガバナンス(体制の構築)という視点から研究、市民の医療生活の向上につながるように啓発していく「医療ガバナンス研究」に取り組むようになりました。
当時の医療問題の一つに、ほとんどの医療機関の診療は夕方までで、仕事に穴をあけられないビジネスパーソンは医療を受けることができない医療弱者であること、また、夜に子どもの具合が悪くなったら、救急病院以外に診てもらえる医療機関がないことなど、医療提供体制が市民のニーズにマッチしていないという状況がありました。
そういった問題を解決するための施設を作りたいと考えていた矢先、JR東日本がステーションルネッサンスの一環として「これからは駅で、保育、医療などのソフトサービスも提供していかなければならない」とエキナカで様々なサービスを展開していて、「医療を良くしたい」という私の想いと合致したこともあり、2008年6月にJR東日本立川駅構内の商業施設「エキュート立川」4階に「ナビタスクリニック立川」を開設しました。
「駅ナカ」でとても通いやすいクリニックですね。
はい。駅ナカというアクセスが良い場所にあること、平日は夜9時まで通常診療を提供していることが当クリニックの大きな特徴です。仕事や学校帰りにも立ち寄りやすく、また駅は交通の中心地であるので、ご高齢の方もバスなどですぐに駅に来られます。どなたにとっても受診しやすい立地です。
そのほかにもインターネットで診療時間を予約できたり、ウェブで来院前に問診をしたりなど、インターネットを活用して、できるだけ患者さんの時間を無駄にせずに診察できるように心がけています。
当クリニックの診療科には、内科、小児科、皮膚科、血液内科がありますが、所属している医師は、大学の同級生や、虎の門病院で一緒に働いていた仲間だったりと、診療能力はもとより、人格的に優れ、安心して診療を任せられる医師ばかりです。
看護師や事務スタッフも、当院が夜遅くまで診療していることを承知で入職してくれていて、困っている人の役に立ちたいというマインドを持っています。患者さんにも優しく接していて、本当に自慢のスタッフたちですね。
あとは、特別な検査機器を導入していないというのも特徴の一つでしょうか。高額な医療機器をいれると、どうしてもそういった機器を使用しがちになってしまいます。私は、日常的な病気のほとんどは特別な検査をせずとも診断は可能だと考えていて、不要な検査をしないで済むよう、高額の医療機器はおかないようにしているんです。もちろん、CTやMRI、内視鏡などの検査が必要だと判断した場合には、連携している近隣の医療機関をご紹介して実施してもらいます。