排尿障害から泌尿器がんまで、かかりつけ医として一人ひとりの患者さんに寄り添い続ける
開業してまだ2年足らずとお伺いしましたが、患者さんの数が多く驚きました。皆様どのようなきっかけで来院されるのでしょうか?
開業当初はweb検索や看板をみて来院される患者さんがほとんどでしたが、最近は当院にかかりつけの患者さんから紹介されて来院される方が増えています。SNS全盛時代にアナログだとは思いますが、このように患者さんの口コミで来院される方が増えると医療者としてやりがいを感じ診療の励みになっています。
一方で患者さんが増えることで、一人一人の診療のレベルが下がっては意味がありません。今後も、皆様に満足いただける医療を提供できるよう日々精進していきます。
どのような症状の患者さんが多く来院されていますか?
老若男女問わず幅広い層の患者さんが来院されています。中高年の世代ですと、尿漏れ(尿失禁)や頻尿、排尿困難などの排尿障害で悩まれている方が多いですね。男性では前立腺肥大症などの前立腺疾患の方がやはり多いです。女性の場合ですと、とりわけ年齢を重ねるにつれて増えるのが、咳やくしゃみなど、お腹に力が入った際に尿が漏れてしまう「腹圧性尿失禁」です。腹圧性尿失禁は、骨盤底筋の筋力低下によって引き起こされるため、当クリニックでは治療として薬物療法だけでなく、ピラティスを用いた骨盤底筋トレーニングを取り入れています。
さらに、腹圧性尿失禁だけでなく、過活動膀胱、男性の前立腺疾患や前立腺がん手術後の尿漏れといったさまざまな尿失禁に対して改善効果が期待できる「磁気刺激装置NICO Wave」を導入しています。これは、着衣のまま磁気を発生する専用椅子に25分間座っていただくだけの患者さんにとってご負担が軽い治療法で、自由診療となりますが、治療の選択肢の一つとして患者さんにご提案しております。
また、最近では男性の更年期障害の認知度が高まり、イライラ、集中力の低下、倦怠感などの症状を訴えられて来院される中高年から高齢の方が増えている印象です。女性特有と思われがちな更年期の症状は男性にもあり、男性ホルモン(テストステロン)の低下やバランスの乱れが原因とされています。テストステロンの不足は、集中力や意欲の低下などをもたらしますので、日常生活や仕事のパフォーマンスに影響を及ぼす可能性があることは否めません。そればかりか、男性の更年期障害は、どのような状態になったら治療が終わるのかという指標がないため、女性以上に深刻であるともいえます。
治療法としては、注射によるテストステロン補充療法が一般的ですが、当クリニックでは、患者さんがお困りの症状をしっかりとお伺いした上で、患者さんと相談しながらご希望の状態に近づけるように治療を進めています。
三宮という場所柄、若い世代の患者さんも多いのでしょうか?
そうですね。比較的若い世代の方は、膀胱炎(尿路感染症)や性感染症といった感染症の症状で受診される方が多いです。病院勤務医時代はこのような疾患を診る機会は少なかったですが、私は幸い、大学院時代に尿路性器感染症を専門に研究を行っておりましたので、大学院時代の知識を生かして診療を行っています。若い女性に多い膀胱炎などの尿路感染症に関しては、なぜ膀胱炎になるのか、などの疑問を解決し疾患の理解を深めていただくように冊子をお渡ししながら説明する診療を心がけています。
それから、性感染症の患者さんも多く受診されます。性感染症はコロナ禍で唯一減少しなかった感染症です。具体的な疾患としては、淋病(淋菌感染症)、クラミジア感染症、性器ヘルペスなどさまざまですが、特に梅毒の感染者が年々増加傾向です。昨今の性感染症は、マイコプラズマ感染症などの新規感染症の増加や梅毒患者の急増により、治療には専門的な知識が必要になってきています。性感染症認定医として知識を常にアップデートして治療にあたっています。
また、性感染症は伝播しますので、患者さん自身が治ったらそれでいいという病気ではありません。パートナーの治療も必要ですし、何よりも患者さんの教育が大切です。性感染症認定医として、当クリニックでは、治療だけでなく、「どういう行為で感染するのか」「しっかり治癒しないとどうなるのか」など性感染症に関する教育にも力を入れて取り組んでいます。
泌尿器がんの診療やサポートもしているとお聞きしました。
はい。がん診療というと、大きな病院にいかなくては……と考える方も多いと思いますが、当クリニックでも前立腺がん、腎がん、膀胱がん、腎盂がん、尿管がん、精巣がんの診断、一部の治療、経過観察を行うことができます。
私は、「医師と患者の信頼関係がないと良いがん治療はできない」と考えており、まずは患者さんと十分なコミュニケーションをとり、医師として信頼していただけるように取り組んでいます。しかし、クリニックでできるがんの治療は限られています。手術や抗がん剤、放射線治療が必要な場合は、「この治療の場合には、この先生がいいですよ」と私が信頼を寄せる医師が在籍するがん拠点病院をご紹介させていただきます。
そして、当然ながら、患者さんを病院にご紹介して終わりではありません。がん拠点病院での治療中には「この治療で本当にいいのだろうか」、治療後には「がんが再発したらどうしよう」など、がん患者さんはさまざまな不安や疑問を抱えていらっしゃいます。当クリニックでは、がん拠点病院の治療中も退院後も患者さんが希望されれば定期的に当クリニックに通院していただき、患者さんの状態を把握したうえで、患者さんが治療内容や経過について深く理解できるよう丁寧にご説明したり、日常生活のアドバイスをしたりして、患者さんのご不安や悩みを払拭できるように努めています。これは、がん診療に長く携わってきた私の役目であり、「がん診療のかかかりつけ医」だからこそできることだと感じています。そして、「がん拠点病院の主治医が2-3年に1回変わろうが、かかりつけ医は一生変わらずそばにいる」ことが、がん患者さんの安心感につながると信じています。
当クリニックで診断したがん患者さん以外でも、現在がんの治療をうけているが、かかりつけ医をもっておられない患者さんもぜひご相談ください。