高圧水素酸素治療で、がん、新型コロナ後遺症、線維筋痛症、慢性疲労症候群など難治性疾患の治療にも挑戦
医院の特長や力を入れている診療について教えてください。
当院は保険診療によって、お子さんからお年寄りまで幅広い年齢の方を診療しています。糖尿病や高血圧をはじめとした生活習慣病を診療するとともに、がんやパーキンソン病、線維筋痛症、慢性疲労症候群を始めとする、難治性の疾患についても治療をしていることが当院の特長です。
難治性の疾患に対して西洋医学を中心に東洋医学などをとり入れた「統合医療」を行っていますが、その中で、特に大きな可能性を感じ、エビデンス(科学的根拠)の構築に取り組み始めている治療法が、「高圧水素酸素治療」です。高圧水素酸素治療は、簡単に言うと、すでに多くの医療機関で行われている「高圧酸素治療」に、「水素ガス吸入療法」を付加したもので、水素と酸素の効果を最大限に活用できる最新の治療です。水素を活用した医療については、先日、慶応義塾大学から水素を加えた酸素投与で救命率が高まると発表されたり、アンチエイジングなどで注目されています。高圧水素酸素治療は高圧環境で水素と酸素を取り入れるので、それぞれ単独で受けるよりも、より高い効果を期待できます。
高圧水素酸素治療は、どのような疾患に向いているのでしょうか?
高圧水素酸素治療では、ドーム型のカプセルの中を1.9気圧の高気圧の環境にし、高濃度の酸素50%と水素4%の両方を吸い続けることで、血液中(動脈血)の酸素濃度が通常の6.5倍になるという効果が得られます。高圧環境では物理のヘンリーの法則により、水素と酸素がたくさん血液内に溶け込むのです。血液によって多くの酸素を全身に行き渡らせることで、酸素不足によって起きている病態の改善を図り、なおかつ水素の持つ力も享受できる治療法です。
例えば、「高気圧酸素治療」は、脳梗塞や突発性難聴、がんなどさまざまな疾患で保険適用となっており、大学病院などで行われています。最近では、イスラエルで新型コロナ感染症の後遺症に対する高気圧酸素治療の臨床試験※1が行われ、睡眠障害などの症状が改善したという報告もされています。
一方、「水素ガス吸入療法」は、病気や老化を引き起こすとされている体内の悪玉活性酸素を除去するといわれており、大学病院などでも活発に研究が行われています※2。水素の利点は、脳や細胞の中のエネルギーを生み出すミトコンドリアにまで行き届くことです。自律神経が整うことによる降圧作用※3や、がん、パーキンソン病、関節リウマチなどへの治療効果が多数の論文で報告されています※4。当院で導入している高圧水素酸素治療は、高気圧下で水素ガスを吸入するので、ただ水素を吸うよりも血液へのより高い浸透が期待できます。
※1「新型コロナウイルス感染の長期後遺症「ロングCOVID」は、高濃度の酸素吸入で改善する(和訳)」Sci Rep. 2022; 12: 11252.
Hyperbaric oxygen therapy improves neurocognitive functions and symptoms of post-COVID condition: randomized controlled trial
※2「分子状水素が遺伝子発現を制御するメカニズムの解明」(日本医科大学大学院医学研究科細胞生物学分野の太田成男教授グループ 英国Nature社Open Access Online科学雑誌Scientific Reports 6, Article number 18971, 2016年1月7日号)
https://www.nature.com/articles/srep18971
※3「毎日 1 時間の水素吸入が自律神経のバランスを整え、降圧効果を発揮(慶應義塾大学医学部 准教授 佐野 元昭」
https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/files/2020/11/27/201127-1.pdf(2020/11/27)
※4 保健医療学雑誌「活性酸素と水素療法」(責任著者:渡辺正仁 フィトメディカル研究所)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jalliedhealthsci/11/2/11_160/_pdf
実際に、どのような患者さんが高圧水素酸素治療を受けていますか?
当院では、新型コロナ感染症の後遺症と思われる倦怠感や慢性疲労症候群(筋痛症性脳脊髄炎)、慢性的な腰痛や発作的なかゆみというように、原因がよくわからず、確たる治療法もない症状に、長期間、悩まされている方が高圧水素酸素治療を受けることが多いですね。症状の改善を実感される方が多く、思いがけず「肌のシミが薄くなった」と喜ばれる患者さんもおられます。通常の水素吸入だけでも1週間に1回の頻度で10回吸われた方が、エステの肌チェックがD判定からB判定になったと喜ばれていますので、高気圧環境で水素が肌に作用したら、さらによい美肌効果がありそうで期待しています。
痛みやかゆみ、疲労感というのは、脳の神経回路に伝わることで感じますので、私は、高圧水素酸素治療によって脳の機能が改善し、症状の軽減に役立っているのではないかと考えています。コロナ後遺症の臨床試験でも脳灌流の改善によって後遺症が軽減したと報告されています。実際に、脳の神経疾患といわれる「パーキンソン病」で歩くのがやっとだった群馬の患者さんが、今では筋肉トレーニングまでできるようになっています。当院でもパーキンソン症候群の患者さんに高圧水素酸素治療を行ったところ、長年苦しんでいた手の震えがとまりました。
根本治療がまだなく、200万人もの患者さんが悩んでいる「線維筋痛症」も、脳血流に原因があると報告されているので、高圧水素酸素治療が役立つのではないかと期待しています。実際に当院の患者さんで3回の高圧水素酸素治療でどこに行っても治らなかった線維筋痛症の痛みがほぼ消失して、とても喜ばれています。
貴院では、高圧水素酸素治療をがん患者さんにも役立てているそうですね。
がんに対しても可能性があると考えています。実際に、高気圧酸素によるがん治療は保険適用で行われています。さらに水素ガス吸入ががん細胞を攻撃する免疫細胞を活性化させるという論文※5も発表されています。この高気圧酸素と水素の利点を融合したのが高圧水素酸素治療なのです。
がん細胞というのは、体内が低酸素環境になるとHIF1という遺伝を発現して悪性度を増し、抗がん剤や放射線治療も効きにくくなるといわれています。高圧水素酸素治療により血液中の酸素濃度が高まり低酸素環境が改善されれば、がんの再発・転移の予防や、抗がん剤などの治療効果を高めることができると考えられます。
さらに、体内に炎症が起きていると免疫が抑制され、がんが増殖してしまうのですが、水素には、炎症を抑える作用も期待できます。高圧水素酸素治療は、高気圧酸素と水素ガスを同時に体内に取り込めるので、より有用性が期待できます。もちろん、これだけでがんが治るわけではなく、手術や抗がん剤、免疫治療など主となる治療の下、支えとして役立てられればと考えております。
※5 「水素ガスはコエンザイムQ10を活性化して、消耗したCD8+ T 細胞、特に PD-1+Tim3+ 末端 CD8+ T 細胞を回復させ、肺がん患者のニボルマブの転帰を改善する(和訳)」(くまもと免疫統合医療クリニック赤木純児)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32994821/