脳卒中の急性期治療や認知症診療に取り組んできた神経内科のエキスパートが、気軽に受診しやすい地域密着型のクリニックを開業
はじめに、牧岡先生が開業されるまでのご経歴を教えてください。

高校時代、理系科目が得意だったこともあり、医学部への進学を志し、島根医科大学(現・島根大学医学部)に入学。卒業後は地元に戻り、群馬大学医学部附属病院の神経内科に入局しました。
その後、同大学病院や群馬県内の中核病院において、脳卒中の急性期治療や神経難病、認知症の診療、さらには再発予防を目的とした生活習慣病の治療・管理、一般内科診療に至るまで、幅広い分野に携わってきました。そうした経験を積み重ねる中で、神経内科専門医の資格も取得しました。
神経内科を専門に選ばれた理由についてお聞かせください。
脳の病気は、頭痛やしびれ、物が二重に見えるといったように、実に多彩な症状としてあらわれますが、脳の構造や働きにはまだ未解明な部分も多く、私はその奥深さと神秘性に強く惹かれました。こうした脳の疾患を適切に診断し、治療するには、高度な知識と緻密な判断力が欠かせません。とりわけ脳卒中は、意識のない患者さんに対して迅速かつ的確な判断と処置が必要とされる緊急度の高い疾患です。そうした状況下でも、冷静に対応し続ける神経内科の先生方の姿に深く感銘を受け、「自分もこの分野で力を尽くしたい」と思うようになりました。
その後、大学院に進学され、ハーバード大学にも留学されたとのことですが、どのような研究に取り組まれていたのでしょうか?
私は、認知症の原因解明や治療法の開発に貢献したいという思いから、大学院ではアルツハイマー病の研究に従事しました。博士号取得後は、さらなる知見を深めるため、3年間ハーバード大学に留学し、アルツハイマー病に対する新しい治療法──抗体療法の研究に取り組みました。
この抗体療法は、アルツハイマー病の原因の一つとされるアミロイドβという異常タンパク質に対するもので、病気の進行を抑える可能性があると期待されています。実際に、2024年にはこの治療薬が日本でも承認され、現在は限られた医療機関で実施されていますが、徐々に臨床の現場にも導入が進みつつあります。
長年、脳神経分野の高度先進医療に携わってこられた牧岡先生が、開業を決意されたきっかけについて教えてください。
認知症の患者さんが年々増加しているという現状が、開業を決意した大きなきっかけのひとつです。認知症には、適切な治療によって改善が期待できるタイプと、進行を遅らせることしかできないタイプがありますが、いずれにしても早期発見と早期介入が極めて重要です。
しかし現実には、ご家族が異変に気づいても、いきなり大きな病院を受診させることに本人が強い抵抗感を示し、受診が遅れてしまうケースが少なくありません。だからこそ、もっと気軽に相談できる場が必要だと感じました。地域に根ざしたクリニックであれば、生活の延長線上で自然に足を運んでいただけますし、「ちょっと気になる」といった段階でご相談いただくことが可能です。そうした早期対応の受け皿として機能する場を自ら作りたいと考え、開業を決意しました。

牧岡先生は、認知症の治療と予防に関する専門資格もお持ちだそうですね。
はい。これまで群馬大学医学部附属病院でも、数多くの認知症患者さんの診療に携わってきました。その経験を活かし、大学病院と同水準の専門的な認知症診療を、地域の皆さんにも提供できると考えています。
治療はもちろんのこと、認知症の早期発見や予防にも力を入れていきたいと思っています。加えて、地域の方々に向けた啓発活動も積極的に行っていく予定です。大学病院では診療時間が限られていたため、患者さんやご家族とじっくり向き合うのが難しいこともありました。開業後は、そうしたコミュニケーションの時間をしっかり確保し、ご本人とご家族の両方を支える体制を大切にしていきたいと考えています。