「子どもたちの健全な成長に資する、標準的な医療提供」がクリニックの理念
クリニックにはどのような患者さんが来られますか?
近隣地域にはマンションや住宅街がいくつもあり、子育て世代でもある多くのファミリー層が暮らしておられます。ですので、0歳児から10代の子どもたちまで幅広く、あらゆる疾患の診察にあたるのが当クリニックの日常です。
扱う症例としては、ウィルスなどの感染症に伴う発熱や湿疹が患者数全体の8割近くを占めていて、残りはアレルギー疾患、内分泌疾患、神経疾患など多岐にわたります。もちろん、ごくまれながらも対応の難しい症状で相談にみえる患者さんもいます。その際はすみやかに大学病院などを紹介できる態勢をとっています。生後1か月から3歳くらいまでの子どもの発育発達のチェックや健康相談に応じる乳児検診、そして各種の予防接種といった日常的な業務も、クリニックが地域医療を支えるうえでの大切な役割だと思っています。また、近年は不登校などを含む心身症の相談に乗ることも増えてきましたね。
クリニックの診療の特長を教えてください。
当クリニックが掲げる理念は「子どもたちの健全な成長に資する標準的な医療提供」というものです。したがって、現代医学の主流である「ガイドラインに沿った治療」の提供を第一としています。
医師として長年鍛えた経験や勘というものは、診察時に役立つことはありますが、ひとたび診断がついたあとの治療方針の決定や薬の処方などにおいては、それらに頼りすぎるのは適切とは言えません。現代医学においては、一般的な疾患にはそれぞれエビデンスに基いたガイドライン(科学的根拠のある治療成績のデータを系統的にまとめたもの)が存在します。安全で確実な診療を提供するためには、このガイドラインに沿った治療の提供が大切であると考えています。
「ガイドラインに沿った治療」とは、言い換えるなら「不足もしなければ過度でもない、ちょうどよい効果を期待できる治療」です。一部の特殊な病気を除き、子どもが経験する病気の大半は「その病気と戦うことで強くなっていく」という成長過程の側面も持ちます。ですから、医療による手助けは、なるべく適切なタイミング、適切な量になるようにしなければいけません。「子どもの健全な成長のため、過剰な介入は慎みつつ、しっかりと様子をみながら治療にあたるべき」というのが私の持論であり、当クリニックの特長となっています。
ガイドラインに沿った治療とは、たとえばどのようなものでしょうか?
そうですね。身近な例ですと、たとえば中耳炎に対する処置などがわかりやすいでしょうか。急性疾患である中耳炎では年齢、鼓膜(こまく)の所見、痛みの程度などから、重症・中等症・軽症に分類し、中等症以上と判断すれば段階的に抗生剤を使用しますが、軽症ならまずは痛み止めの薬で様子をみます。
また、長期管理が必要となるぜんそくの治療の例はもう少し複雑で、「治療ステップ」と呼ばれる考え方に従って症状の程度を評価することから始まり、年齢や体質にも合わせて治療方針を決めます。治療ステップが高い場合はICS(吸入ステロイド薬)の用量を上げ、他の治療薬の併用も検討することになります。しかし治療ステップ1程度にとどまる症状であれば、ICSの使用は控えて他の治療薬などで対応するのが通例です。
もちろんガイドラインは絶対の基準ではないため、患者さんである子どもの様子をよく見て、保護者の意見も聞くことも大切です。それでも、ガイドラインに沿って過不足のない治療法を提示することは、医療機関から保護者への説明責任にもつながると考えています。