母親の死をきっかけに医師に。「患者さんのためになることをしたい」と訪問診療のクリニックを開業
はじめに、医師を志したきっかけをお聞かせください。
私が医師を志したのは、母が闘病の甲斐なく、若くして亡くなってしまったという背景があります。母は、私の弟の出産時に前置胎盤による大量出血を起こし、そのときに受けた輸血が原因でC型肝炎ウイルス(HCV)に感染してしまいました。今でこそC型肝炎は、高度な検査方法が確立されて輸血時にHCVに感染するリスクはほとんどなくなり、罹患しても医療技術の進歩によって、かなり高い確率で治る病気になっています。しかし、母が罹患した頃は、C型肝炎という病気の概念自体が無く、有効だと思われる治療法がようやく出始めたものの簡単に受けることができず、肝炎から肝硬変、肝臓がんへと進展していく不治の病でした。
当時、私はまだ学生でしたから、医師になって母親の治療にあたるには間に合わないだろうと薄々わかっていました。それでも、闘病している母の姿を見ているうちに「母のように病気に苦しむ患者さんの力になりたい」と強く思うようになり、医師になることを決めました。
開業されるまでの経緯を教えてください。
医学部卒業後は杏林大学医学部付属病院の医局に入り、消化器内科を専門に経験を積みました。消化器内科を選んだのは、やはり、母の病気が大きかったと思います。
消化器内科の日常的に起こる疾患から重篤な病気まで幅広く診療してきましたが、専門領域が大腸でしたので、特に、潰瘍性大腸炎やクローン病といった慢性の大腸炎症性疾患の診断や治療、「前がん状態」と呼ばれる大腸ポリープを内視鏡で切除する手術に研鑽を積んできました。
また、慢性肝炎や肝硬変から発症した肝臓がんなど、がんが進行している末期がんの患者さんの治療やケアなど、今の仕事にもつながる症例も数多く経験しました。
その後、当院を開院するまで、グループ内に複数ある特別養護老人ホームの拠点病院として運営されている長田病院に勤務し、ご高齢の患者さんの診療や看取りの経験を積んできました。
訪問診療のクリニックを開業された理由は何ですか?
杏林大学付属病院で一緒に勤務していた府中市医師会の理事でもある同期の友人に、「府中市内には訪問診療を行っている医師が非常に少なく、地域の皆さんが困っているのでやってくれないか」と勧められたことが、この場所で在宅療養支援診療所を開業した大きな理由です。
実は、15年以上前になりますが、私は数年間、友人が運営する渋谷区内の在宅療養支援診療所で訪問診療を手伝っていたことがあります。それに、勤務していた長田病院では、患者さんご本人だけでなく、そのご家族や、多職種の方とコミュニケーションを取りながら療養をサポートしていましたので、訪問診療で自分にできることや、何をすべきかということがすぐにイメージできたんです。
「これまでの経験を活かし、自宅で過ごしたいという希望を叶える医療・介護の提供をしていこう」と2020年2月に当院を開業しました。