消化器がんを中心に外科全般の手術で腕を磨いたエキスパートが、地域住民の健康を支える「街の外科医」に転身
はじめに、百瀬先生が医師を志されたきっかけをお聞かせください。

私は産婦人科を開業していた父のもと、自宅が診療の現場という医療がとても身近な環境で育ちました。分娩があるたびに赤ちゃんの力強い産声が家中に響き渡り、多いときにはそれが毎日のように続くこともありました。そのたびに命の誕生に立ち会う父の姿に、幼いながらも大きな尊敬の念を抱いていたのを覚えています。
また、当時は胆石や胃潰瘍などの患者さんのために父の知人である外科医の先生が当院に出向き、手術を行ってくださいました。外科医として患者さんに向き合う真摯な姿勢を間近で見ることができたのも私にとっては大きな刺激でした。こうした日々の積み重ねの中で医師という職業に強く惹かれるようになり、自然とその道を志すようになりました。
百瀬先生は外科専門医であり消化器内視鏡専門医でもいらっしゃいますが、消化器外科を専門とされたのは、どのような理由からでしょうか?
生命の誕生に立ち会う産婦人科医も素晴らしい仕事だと思いましたが、私自身は手術により治癒を目指していく外科の道により強く惹かれました。
また、子どもの頃に自宅で見かけた外科の先生がとてもかっこよく映ったことも今思えば大きなきっかけだったかもしれません(笑)。
開業医に転身されるまでのご経歴を教えてください。
医学部卒業後は順天堂大学の第一外科(当時)に入局し、附属病院および関連病院にておよそ15年間外科医としての経験を重ねました。当時の第一外科は現在のように臓器別に細分化される前でしたので、消化器外科医として食道・胃・大腸・肝臓・胆嚢・膵臓など主に消化器がんの手術に携わると同時に、乳腺や甲状腺、虫垂炎、痔核、ヘルニアといった一般外科領域の手術にも幅広く対応していました。術後管理を含めた全身の診療も担いながら外科医としての総合力を磨いた期間だったと思います。
その後は、地域の病院で約2年間院長を務めたのち、以前から関心のあった整形外科を1年間学びました。そして1997年地元に戻り開業医として新たなスタートを切りました。
外科の第一線でご活躍されてきた百瀬先生が、開業を決意された背景にはどのようなきっかけがあったのでしょうか?
外科医というのはたとえどれほど技術に自信があっても、年齢とともにいずれメスを置く時が訪れる職業です。私自身も40代半ばに入った頃将来のことを見据えて、次のステージへ進むタイミングではないかと考えるようになりました。
そこで実家の医院をビルに建て替え私が1階で新たにクリニックを開業し、父はこれまで通り5階で診療を続けるというかたちで地域医療への新たな一歩を踏み出しました。これまで培ってきた外科医としての経験を生かしながら、より身近で継続的な医療を提供できる場をつくりたいという思いが開業の大きな原動力となりました。
お父様の時代を含めるとすでに70年以上、この場所で地域の皆さんの健康を支えてこられたのですね。
はい。このあたりはかつて近くに花街があったこともあり、料亭が立ち並び芸妓さんたちが行き交う華やかな街並みでした。今ではマンションが建ち並ぶ住宅地となり、若い世代の新しい住人も増え街の風景はすっかり変わりました。
それでも、以前から通ってくださっている患者さんが引っ越されたあとも変わらず来院してくださるのは本当にありがたいことです。35年以上前に父が取り上げたお子さんが今では親御さんとなり、お子さんを連れて三世代で通ってくださっているご家族もいらっしゃいます。そうしたつながりに触れるたび、地域に根ざした医療の大切さを改めて実感しています。
