「自宅で過ごしたい」という希望を叶えるために。話をよく聴き、意向に沿った医療・介護を提供
日々の診療で心がけていることをお聞かせください。
患者さんや介護されているご家族の話に耳を傾け、よく聴くことを心がけています。胸の内に多くのことを留めているのでしょうか、患者さんやご家族の中には、話をお聴きするだけでも「気持ちが楽になった」とおっしゃる方が多くいらっしゃいます。
他の先生方も同じだと思いますが、私も患者さんやご家族に寄り添い、傾聴するということは、求めておられる医療や介護を提供していく上で大切なことだと考えています。ですから、当院では、一日の訪問軒数をせいぜい12、13軒に抑えて、患者さんやご家族と対話する時間をできるだけ取るように心がけています。
介護されているご家族へのサポートも大切なのですね。
特に、患者さんが末期がんや認知症の場合、介護されているご家族の心身には相当の負担がかかっていて、精神的にまいってしまっている方も少なくありません。
例えば、認知症の患者さんに暴力や徘徊、おむつを食べてしまうなどの問題行動がみられると、ご家族はそれをどうやって受け入れ、どんなふうに介護していったらいいのか困惑してしまいます。あまりにもひどい問題行動だと、どうにも受け入れられず、介護が嫌になってしまうこともあります。どこまでならご家族で対応できて、どこからは対応できないのかといったことをよく聴きながら線引きをして、それを超えたらグループホームなどの入所できる施設を探すといった支援につなげるようにしています。
ただ、介護されているご家族の気持ちというのは、とても複雑で揺れ動きます。一旦は施設に入所させても、やはり自宅でみたいと、お気持ちが変わる方も多いんですね。そうしたご家族の心情も踏まえながら臨機応変に対応するということも大切だと考えています。
お忙しい日々だと思いますが、休日はどのように過ごされているのですか？
今、土日を休診日にしていますが、何かあれば24時間365日対応していますので、とにかく自分自身が健康で元気でいなければいけないと思っているんです。ですので、休日はもっぱらトレーニングジムや整体に行って、自分の体のメンテナンスに時間を使っています。
在宅療養されている方はご高齢の方も多く、外出もままならないので、しょんぼりとして、元気のない方も多いんです。私自身が元気いっぱい明るく診療に伺うことで、「先生が来てくれて元気になった」と言ってくださる患者さんやご家族も多いので、しっかりメンテナンスして健康維持に努めていきたいと思っています。
今後も展望や読者へのメッセージをお願いいたします。
在宅療養支援診療所には、容態の急変などで、夜中に電話がかかってくることも多いのですが、当院は、夜間も主治医の私が電話に出て、患者さんやご家族と直接話しをして状況確認や対応をしています。
患者さんの数をどんどん増やし、夜間の電話対応はコールセンターに任せて効率的に運営するという方法もあります。しかし、患者さんやご家族の立場に立ってみると、特に急変時は、すぐに主治医に相談できたほうが安心できます。
私は、「自分たちが楽をするよりも、患者さんやご家族の力になれることをしたい」という思いを強く持って当院を運営しています。今後も患者さんやご家族のお気持ちに寄り添った医療の提供ができるように、今の運営スタイルが守れるくらいの規模の患者さん数を保っていきたいと考えています。
それから、訪問診療で提供している医療は、「病気を治す」ということよりも、住み慣れた場所で安心して療養していただくための支援です。人それぞれ、余生をどのように過ごしたいのか、ご要望は異なるはずですから、患者さんやご家族のお考えを尊重し、意向に沿った医療・介護を提供し続けていきたいですね。