薬剤師から循環器専門医へ転身。心臓カテーテル手術を軸に豊富な臨床経験を積む
先生は薬剤師から医師に転身されたとのことですが、医療人を志したきっかけを教えてください。
祖父と母が薬剤師だったことが大きく影響しています。特に母は住宅街の一角に薬局を構える漢方専門の薬剤師でした。じっくり患者さんの相談にのり、母の漢方の処方で元気になっていく患者さんの様子をみているうちに、いつの頃からか自分もいずれは漢方薬剤師になりたいと思うようになっていましたね。
大学は東洋医学総合研究所を擁する北里大学薬学部に進学。ここではイベルメクチンの開発でノーベル医学・生理学賞を受賞された大村智先生が教壇に立っておられ、多くのことを学びました。漢方研究会の会長を務め、人参養栄湯をテーマに東洋医学総合研究所と共同研究で卒論を書くなど、漢方研究に熱中した学生時代を経て薬剤師免許を取得、1988年実家の御所ノ内漢方薬局で仕事に就きました。
そんなに熱中された漢方の道からなぜ医師へ転身されたのでしょうか?
漢方には、お腹に触れる腹診や、舌の状態を観察する舌診(ぜっしん)など、独自の診断方法があります。しかし、患者さんに触れて診断するには医師免許が必要なんです。「困っている方のために薬学的な管理だけでなく、診断までできるようになりたい」と強く想うようになり医師への転身を決めました。再度の受験勉強はそれはもう大変でしたが、猛勉強の甲斐あって宮崎大学の医学部に入学しました。
卒業してからは「循環器内科」の道を進まれたのですね。
医師となり、西洋医学的な手術で目の前の患者さんが劇的に良くなっていくのを見るにつれ、特に深く生命に関わる「心臓」を診ていきたいと思うようになりました。薬剤師時代は、医療の知識はあっても、目の前で倒れた人や交通事故の負傷者などに医療的な措置を施すことはできなかったので、その反動もあったのだと思います。
宮崎大学卒業後は、滋賀医科大学医学部附属病院の呼吸循環器内科に入局。
急性心筋梗塞や狭心症などの治療で必要となる心臓カテーテル手術の専門医を目指し、同大学病院や京都の基幹病院で、心臓カテーテル検査・治療を中心に心臓疾患の診療に携わってきました。
大学院で「心不全」の病理についての研究もされていたとお聞きしました。
はい。心不全とは、心筋梗塞や狭心症、高血圧、不整脈などさまざまな原因で心臓の機能が低下し、むくみや呼吸困難、胸の痛みなどが起こり、放置するとだんだん悪くなって命を失う危険性が高い病気です。さらに、たとえカテーテル手術で命が助かっても、予後が悪い疾患で、再び心不全になる方も少なくありません。
日々、心疾患の患者さんの診療に携わる中では、心不全で亡くなる方も多く、その病理についてもっと深く研究したいと思うようになったんです。
そこで、滋賀医科大学の大学院へ進学。2002年に田中耕一先生がノーベル化学賞を受賞したことで一躍脚光を浴びた、たんぱく質の構造や機能、相互作用を解析するプロテオミクスという学問領域を研究分野に選びました。この研究の中で、心臓を保護するたんぱく質を見つけ、論文を書いて医学博士号も取得しています。世の中を劇的に変えるような研究ではありませんが、心不全やその予防に対する知識が深まった4年間でした。
その学びを活かして2006年、静岡にある岡村記念病院で臨床に戻りました。ここは心臓カテーテル手術の分野でも全国トップクラスの実績がある循環器専門の病院で、心臓カテーテル手術をはじめとするさまざまな症例を数多く経験し、研鑽を積んできました。
その後、2010年に滋賀県の公立甲賀病院に移ってからは、心不全の進行予防を目標に心不全チームを組んだり、心不全リハビリを立ち上げたりとチーム医療にも注力しながら地域医療に貢献すべく腕を磨いてきました。