2人の外科医が、腹腔鏡手術のスペシャリストの道をそれぞれ歩み、大阪で出会い、開業を志す
こちらのクリニックは「日帰り手術専門」という比較的新しい形態ですが、どのような経緯で開院されたのでしょうか。
【所院長】そうですね。開業の経緯にはまず、日本の日帰り手術の実状からお話しする必要があります。内臓疾患の外科手術というと、お腹をメスで切る「開腹手術」を思い浮かべる人が多いと思いますが、医療技術の進歩により、近年は「低侵襲(ていしんしゅう)治療」という手法が広まっています。医学用語の「侵襲」とは簡単に言うと「身体に害がある」という意味で、身体をメスで切ったり、副作用の強い薬剤を使ったりといった治療法は「侵襲の度合いが高い」と言えます。
それに対し、内視鏡を使った治療や血管カテーテルを使用した治療などは、従来の治療法に比べて患者さんの肉体にかかる負担が少なく、「侵襲の度合いが低い」ことから低侵襲治療と呼ばれます。私たちが手がける腹腔鏡手術も、そうした低侵襲治療の代表格です。
開腹手術に比べ術後の身体的負担が少ない、腹腔鏡手術のメリットを活用した医療を提供したいということですね。
【田村副院長】はい、現在の時点では当クリニックで扱いのある「鼠径(そけい)ヘルニア」「虫垂炎」など、日帰りでできる手術の対象は数種類の疾患に限られていますが、将来的にはもっと多くの疾患に対しても日帰り手術ができるようになると考えられます。
【所院長】ところが、その「そけいヘルニア」「虫垂炎」ですら、今の日本ではあまり日帰り手術による治療は広まっておらず、数日間の入院を伴う手術となる例が多いのです。入院というのは患者さんにとって費用的にも時間的にも負担の大きいものですから、結果として患者さんの中には「治療をためらってしまう人」や「予定が合わず治療が遅れてしまう人」も出てきます。
私たちはそうした日本の医療の現実に一石を投じていきたいと考え、あえて「日帰り手術専門」のクリニックに挑戦することにしました。世界に目を向けると、欧米諸国では日帰り手術はもっとポピュラーな選択肢として受け入れられていて、医療費の削減など社旗全体へのメリットも大きいとされています。今後は日本でもそうした考え方が標準として受け入れられるという確信もあります。
【田村副院長】もちろん私たちも、日帰り手術が適用可能であっても。やみくもに患者さんに日帰り手術を勧めるわけではありません。患者さんごとの症状をよく検査して、治療の安全性を十分に担保できる場合のみ、当クリニックの日帰り手術による治療を提案しています。
それでは、少し遡って、お二人が医師を志したきっかけや、開業までのご経歴についてそれぞれお聞かせください。
【所院長】医師を志したのは、外科医の勤務医だった父の姿を見て育った影響が大きいですね。広島大学医学部に進み、卒業後は出身である関東に戻って千葉大学医学部附属病院肝胆膵外科に入局。その後、千葉県がんセンター消化器外科に勤務して、数多くの消化器系がんの症例に携わる中で、腹腔鏡手術に出会いました。
その後は、 中国への臨床留学を経て視野を広げ、帰国後は大阪赤十字病院に勤務しました。大阪赤十字病院は日本国内だけでなく、中国台湾韓国からも多くの外科医が手術を学びに来るほど世界的に低侵襲手術で有名な施設です。ここで4年間勤務し、低侵襲手術の技術は大きく伸びたと感じました。このとき出会ったのが田村先生で、ひときわ技術習得に熱心な彼の姿を見て声をかけ、私の挑戦を手伝ってもらうことになりました。
【田村副院長】私も院長と同じく、医師を目指したきっかけは歯科医の父の影響が大きかったですね。手技を極めることへの憧れが強く、小学校の作文ではもうすでにはっきりと「将来の夢は外科医」と書いたのを覚えています。川崎医科大学医学部卒業して研修医を終えたあとは、出身地のこちらに戻り、所先生との出会いの場となる大阪赤十字病院に勤めました。
赤十字病院ではがんを含めた消化器疾患の外科手術に数多く携わりましたが、そのうち9割近くは腹腔鏡手術でした。丸7年勤務する間には専門医資格なども取得し、知識や経験の習得に加え、何よりも技術レベルの向上に努めていました。
技術向上を追求していたのは、私自身も腹腔鏡手術や日帰り手術に大きな可能性を感じていたからです。また、私はもともと所先生の勤勉さや誠実さを尊敬しており、優れた手技、コミュニケーション能力、データ管理能力といった医師としての高いスキルを持つことにも、憧れを持っていました。ですから、先生からクリニック開業のビジョンを聞かされたときに喜んで賛同したというのが、当クリニックに入職したいきさつです。