呼吸器専門医として幅広く診療経験を積む。長年培った高い専門性を地域医療に還元すべく、呼吸器内科クリニックを開業
はじめに、稲毛先生が医師を志したきっかけと、呼吸器内科を専門とされた理由をお聞かせください。

医師を目指そうと思ったのは、中学生の頃に祖父が脳梗塞で倒れたのがきっかけです。病に苦しむ姿を間近で見て、「多くの人の役に立つ医師になろう」と決意しました。山形の田舎で育ちましたので、考えられる職業の選択肢もそれほど多くなく(笑)、そのまま山形大学医学部に進学しました。
もともと内科系を希望していたため、医学部卒業後は第一内科に入局しました。当時の第一内科は、呼吸器、循環器、腎臓内科の3つの科があり、呼吸器内科には同じサークルの先輩が多く在籍していたんです。「人手が足りないので若手も活躍できるよ」と誘われ、自分の性格にも合っているように感じて呼吸器内科を専攻しました。
開業されるまでのご経歴を教えてください。
山形大学で初期研修、米沢市立病院で後期研修を受けた後、山形大学に戻って臨床研究に携わり、間質性肺炎の研究で博士号を取得しました。その後、国立療養所山形病院で1年間、結核などの感染症を学び、2000年に公立置賜総合病院の新設に伴って異動しました。医師になって7年目くらいでしたが、上司と私の2人で内科をスタートさせ、一から呼吸器内科を立ち上げる貴重な経験となりました。その後は当院を開業するまで、22年にわたって公立置賜総合病院で幅広く診療経験を積み、診療部部長(内科)や呼吸器科科長、医療安全部感染対策室長も務めさせていただきました。
主にどのような疾患や症例を診てこられたのでしょうか?
気管支喘息から肺がんの治療まで、すべての呼吸器疾患を診療していました。都市部の大学病院では疾患別の専門チームに分かれていることもありますが、地域の中核病院では「何でも診る」が求められます。公立置賜総合病院は、ドクターヘリ対応の三次救急も担っていましたので、集中治療室での管理、救命センターの当直なども行い、呼吸器疾患にとどまらず、一般内科でもあらゆる症状に対応し研鑽を積みました。
また、臨床教授として、学生や若い医師への指導・育成や、認定看護師の指導にも積極的に携わりました。近年は新型コロナ対策の陣頭指揮も執るなど、さまざまな経験を積むことができたと感じています。
要職を担ってこられた先生が開業医に転身された理由をお聞かせください。
きっかけになったのは、2020年頃に始動した「川西町メディカルタウン構想」です。公立置賜総合病院周辺の土地を利活用し、医療、住宅、商業が一体となった街づくりを進めるなかで、自治体の担当者からお声がけいただきました。
また、置賜地域には呼吸器内科のクリニックがなかったことも大きな理由です。プライマリ・ケアを担う医療機関が少ないため、どうしても総合病院に患者さんが集中する状況になっていました。本来であれば、重症患者に注力すべきところに十分な時間が割けないこともあり、私自身も「軽症の方や急性期を終えた患者さんを引き受けてくれる開業医の先生がいるといいな」と思っていたんです。
そんなときに声をかけていただき、「じゃあ、自分がやろう」と開業を決意しました。高度医療機関と地域医療機関で役割を分担しながら連携をとり、地域の方々の健康を守ることと、置賜地域に呼吸器疾患の専門診療を受けられるクリニックをつくるという2つの柱で2022年に当院を開業しました。

