私の父は定年まで広島市民病院に勤める小児科医で、祖父は産婦人科の開業医でした。幼少期には、父が働く病院に連れていってもらうこともよくあり、患者さんに寄り添った診療をしている父の姿を見て、医師という職業に憧れを抱くようになっていました。進路を決める時には、車が好きでしたので、エンジンの開発や設計など工学系に進もうかと迷う時期もありましたが、最終的には、祖父と父と同じ医師になると決め、広島大学医学部へ進学しました。

大学の臨床実習で、採血の手技や手術に用いる腹腔鏡操作を練習するのですが、私はどれも比較的上手にできたんです。昔から手先は器用なほうでしたし、同級生からも「岡崎は外科が向いているね」と言われることが多く、外科系に進むことを決めました。
 
外科系の中でも脳神経外科を専攻した理由はいろいろあるのですが、「開頭手術」と「血管内治療」の両方の治療を行っているという点に魅力を感じたことが大きいですね。開頭手術は頭部を切開して行う手術です。血管内治療は、足の付け根などから血管を通じてカテーテルを入れて脳内の患部の治療を行うもので、局所麻酔で施術できるなど、患者さんの体にかかる負担が非常に少ない低侵襲な治療法です。従来の手術と低侵襲治療の両方を学ぶことができれば、患者さんによりよい治療の選択肢を提案することが可能になると考えました。
 
また、脳神経外科にはご高齢の患者さんもいらっしゃいますが、脳血管が狭くなり詰まってしまうもやもや病という難病は低年齢で発症することも多いですし、脳腫瘍を患うお子さんもおられます。私は子どもが好きでしたし、お子さんからお年寄りまで患者さんを幅広く診られることも、脳神経外科を専攻にした理由の一つです。

大学卒業後は、母校の附属病院（現・広島大学病院）の脳神経外科に入局し、大学病院や関連病院の脳神経外科で研鑽を重ねました。症例としては、専門とする脳血管障害の領域で、脳卒中（脳梗塞、脳出血、くも膜下出血）や脳動脈瘤、頸動脈狭窄症などの治療に携わりました。お子さんの患者さんでは、もやもや病や脳腫瘍の治療を担当することが多かったです。
 
そうして二十数年、臨床の現場に立ち続けてきましたが、大学病院や基幹病院での治療は1日に1人手術できるかどうかというところで、助けられる患者さんの数がどうしても限られてしまいます。また、勤務医には定年がありますし、年数を重ねていくと管理職となり治療の現場から遠ざかっていくことになります。でも開業すれば、1日に何十人という患者さんを診ることができますし、患者さんをより身近なところでサポートできます。そして開業医は、一生現役の医師でいることができます。
 
私の祖父は、86歳になるまで開業医として医師の仕事を全うしました。晩年は主に内科診療でしたが、祖父を頼ってクリニックを訪れる地域の患者さんを診察したり、困っている患者さんのもとへ祖父が往診して点滴したりするなど、医師として患者さんに寄り添い続けていました。
 
私は大学病院で後輩の育成にもあたり、若い優秀な医師がたくさん育っている様子も目にしていました。それならば私は後進に道を譲り、祖父のように患者さんに寄り添う医師として臨床を続けようと、2022年10月に「おかざき脳神経クリニック」を開業するに至ります。