大学病院でペインクリニック、緩和ケアの臨床経験を積み、ニーズが高まる在宅医療の専門クリニックを開業
はじめに、田中先生のご経歴とご専門について教えてください。

宮崎医科大学医学部を卒業後、同大学附属病院の麻酔科に入局しました。麻酔科を専攻したのは、当時、麻酔科に在籍されていた高崎眞弓先生から指導を受けたのがきっかけです。高崎先生のすばらしい実績と魅力的な人柄に惹かれ、「高崎先生のもとで学びたい」と思い麻酔科の道に進みました。
入局後は、手術の麻酔管理や術前術後の全身管理などを中心に経験を積みました。その後、関連病院の国立函館病院(現・函館医療センター)や、健康保険天草中央病院(現・天草中央総合病院)に勤務し、麻酔以外のペインクリニックや緩和医療についても学びました。
大学病院に戻った後は、主にペインクリニックの診療に従事し研鑽を積みました。途中、宮崎大学大学院に進み、ペインクリニックの治療で用いる「パルス高周波法」の研究にも取り組み、学位を取得しています。
潤和会記念病院では緩和ケア科部長を務められていますが、どういった医療になるのでしょうか?
緩和ケアと聞くと、がん治療が終わった終末期の患者さんを対象としたホスピス的なイメージをもたれる方が多いと思いますが、実際は少し違っています。終末期のがん患者さんはもちろんですが、現在、治療中のがん患者さんや重篤な慢性心不全の患者さんも緩和ケアの対象になっています。そのような患者さんのお気持ちや考え方を尊重しながら、身体的な痛みや精神的なつらさの緩和を目指した医療を行います。
潤和会記念病院では、緩和ケア病棟はすべて個室でご家族も一緒に泊まれるようになっており、ゆっくりとした時間が流れていました。患者さんが最期までその人らしく安心して過ごせるように、医師や専門スタッフがご家族を含めてさまざまなサポートをしています。私も責任者として多くの患者さんやご家族をケアするなかで、現在につながる貴重な経験を積むことができました。
要職に就かれていた先生が開業されたのは、どのような想いからでしょうか?
緩和ケア病棟の患者さんが自宅に戻って在宅療養(自宅で受ける緩和ケア)になったとき、宮崎市周辺地域では在宅医療を担う医師がまだまだ少ないのが現状です。私が開業して地域医療に貢献できればと思い、2022年5月より訪問診療を開始し、2024年4月に「タナカ在宅クリニック」を独立開業しました。特に、当院のある佐土原地区は宮崎市内から車で30分ほど離れた場所ですので、周辺地域にお住まいの方のニーズも高いと感じています。
あとは、新型コロナの影響も大きかったですね。コロナ禍では、ご家族が入院中の患者さんに面会できず、臨終の場にもごく少数の方しか立ち会えないという状況でした。そういった時期を経て、「病院から家に帰って過ごしたい」という患者さんやご家族が増え、在宅医療の需要が高まったのも理由のひとつです。

